忍者ブログ

一円大王

谷口英久(道出版)

 1円玉で何が買えるか、買えないか。著者が実験してみた見聞録。
 お米を1円分とか、箸袋を1円分とか、そのあたりのエピソードは面白く読むことができた。
 箸袋500個入りで250円。それを1円で2枚買う。領収書も書いてもらう。
 買ってどうする、という疑問はさておき、まぁ売る側もたいした損害(?)はなさそうなので、問題はないだろう。

 でも中には笑えない話もあった。たとえば「落語1円分」。筆者が知り合いの落語家に頼んで41秒間だけ落語を演じてもらったのだ。
 これは読んでいて腹が立った。してはいけないことだと思った。
55点
PR

刺青・秘密

谷崎潤一郎(新潮社)

 七つの作品が収められているが、私が気に入ったのは「異端者の悲しみ」。
 大学生の章三郎は学校へも行かず、今で言う引きこもりのような状態であった。家は貧しく、妹は肺病を患い、気が塞ぐ毎日。章三郎は己の不運を嘆くのだった……。

 出だしの数ページからして、完璧な文章である。午睡を貪る主人公の夢うつつの世界。やがて覚醒した彼が感じる不条理感。その表現のうまさに圧倒された。
 当代切っての小説家に「谷崎を読むと小説を書く気が失せる」と言わせるだけのことはある。
 友人から借金をした挙句、踏み倒したり、末期の妹に心の中で悪態をついたり、主人公はかなり性格の悪い人間だが、あまりにも端正な文章ゆえか、さほど気にはならなかった。
 むしろそのおバカさんぶりには苦笑を誘われた。
85点

猫と庄造と二人のおんな

谷崎潤一郎(新潮社)

 働きもせずにのらくらと毎日猫ばかり可愛がる庄造。彼の前妻の品子が、庄造の猫を引き取りたいと言い出し、後釜の福子にも責められて、ついに猫を手放すが……。

 たった一匹の猫に、庄造も品子も福子も翻弄される。はたから見ると滑稽この上ないのだが、当人は至ってクソまじめ。そこにこの作品の妙味がある。
 庄造がこそこそと猫の様子を見に行くラストは、あまりのばかばかしさに脱力したが、庄造の刹那主義を際立たせてもいる。
80点

雨の日はソファで散歩

種村季弘(筑摩書房)

 ドイツ文学者・評論家である種村季弘氏の最後のエッセイ集。
 多種多様な話が収められている。長くて退屈な話もあったが、切れ味鋭い短い話もたくさんあった。

 たとえば「顔文一致」。平岡正明氏(評論家)が「レコードと違って本の表紙には何故著者の写真がデザインしてないのか。物書きには顔に自信があるやつがいないから」と書いたという。ただし例外がいる、自分と種村氏。自著のカヴァーに自影を載せている。顔にも文章にも自信がある、これを顔文一致という。これを聞いた種村氏、舞い上がるほど喜んだらしい。
 こんな茶目っ気のある軽い話は、読んでいてとても愉快であった。
65点

七夜物語

川上弘美(朝日新聞出版)

 さよと仄田くんはともに小学4年生。ふたりは図書館で見つけた『七夜(ななよ)物語』という本の世界に入り込む。巨大ねずみのいる世界、心地よくて、とても眠たくなる世界、さよが生まれる前の、若い頃の父と母がいる世界……ふたりは七つの夜を旅する。

 上巻の帯には「本格長編ファンタジー」と書かれている。それでどうしても「ハリー・ポッター」を思い出してしまう。あれに比べたら、この作品はなんて地味で慎ましやかなのだろう。でもそこがいい。小さな箱にきっちりと詰められた上質な和菓子のようで、とてもいい。

 そして下巻の帯には「児童文学の新たな金字塔」と書かれている。しかし著者は子どもが読むことを念頭に置いていないのではないだろうか。「とても」と書けばいいところを「たいそう」と、「きちんとした」と書けばいいところを「折り目正しい」と書いてある。大人の鑑賞に堪えうる、美しい日本語で書かれている。その選ばれし言葉たちを、私は存分に楽しんだ。
 手放しで「面白い!」とはいえない作品だが、静かに心を揺さぶる作品ではあった。
80点

カレンダー

04 2026/05 06
S M T W T F S
1 2
3 4 6 7 9
10 11 12 14 15 16
17 18 19 21 22
24 25 26 27 28 29 30
31

カテゴリー

フリーエリア

最新コメント

[05/14 まきまき]
[05/14 ぴーの]
[04/29 まきまき]
[04/29 ぴーの]
[03/21 まきまき]

プロフィール

HN:
まきまき
性別:
女性

バーコード

ブログ内検索

P R

カウンター

アクセス解析