フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(光文社)
ドミートリー、イワン、アリョーシャのカラマーゾフ三兄弟。長男はひと言で表すと不良。派手好き、酒好き、非常に直情的な性格。次男は知的で怜悧、何を考えているのかよく分からない謎の人物。三男は優しくて誰からも好かれる好青年。彼らの父・フョードルは成り上がり者で、好色にして悪党、計算高い人物である。
他に三兄弟の恋愛相手として、妖艶な女性・グルーシェニカ、美しくてプライドが高いカテリーナ、明るく、いたずら好きなリーズが登場する。
三男のアリョーシャは聖職者となるべく修道院で暮らしてい、尊敬する長老・ゾシマの死に衝撃を受ける。彼の死は何の奇跡も起こさず、遺体からは腐臭がただよいはじめる。揺れるアリョーシャの信仰心。兄たちの確執も彼の心に重くのしかかるのであった。
いっぽうドミートリーと父親はグルーシェニカに思いをよせるが、やがて何者かによって父親は殺害される。当然のごとく嫌疑をかけられるドミートリー。はたして彼は真犯人なのか……。
亀山郁夫氏の新訳で読んだせいか難解な部分はほぼ無く、没頭して読むことができた。
全4巻+エピローグ別巻、カラマーゾフ家の面々につねに圧倒されながら読んだが、特に印象深かった部分を紹介したいと思う。
まず第1部のゾシマ長老の庵室における会合のシーン。父であるフョードルが、ドミートリーと和解するために一家とその縁者に召集をかけたのだ。しかしフョードルは悪ふざけばかりし、長い意味のない演説をぶって皆を煙に巻く。
彼の異常なまでの興奮がたたみかけるように描かれていて、その無礼な振る舞いには度肝を抜かれた。
それから第2部のイワンとアリョーシャの料理屋での会話。イワンは自分の想い、生き方をアリョーシャに告げる。ありとあらゆる幼児虐待例(具体的すぎて吐き気を催すほど)。神は存在するのか否か。最後に彼が創作したという「大審問官」物語。長大な彼の話は隅々まで趣向が凝らされており、ぎっしりと種が詰まった果実のようである。
こんな超大作は読めないと食わず嫌いをしている貴方、漱石の『それから』やジッドの『狭き門』(いずれも読了できず)より数倍読みやすいこと請け合いです。
90点
ドミートリー、イワン、アリョーシャのカラマーゾフ三兄弟。長男はひと言で表すと不良。派手好き、酒好き、非常に直情的な性格。次男は知的で怜悧、何を考えているのかよく分からない謎の人物。三男は優しくて誰からも好かれる好青年。彼らの父・フョードルは成り上がり者で、好色にして悪党、計算高い人物である。
他に三兄弟の恋愛相手として、妖艶な女性・グルーシェニカ、美しくてプライドが高いカテリーナ、明るく、いたずら好きなリーズが登場する。
三男のアリョーシャは聖職者となるべく修道院で暮らしてい、尊敬する長老・ゾシマの死に衝撃を受ける。彼の死は何の奇跡も起こさず、遺体からは腐臭がただよいはじめる。揺れるアリョーシャの信仰心。兄たちの確執も彼の心に重くのしかかるのであった。
いっぽうドミートリーと父親はグルーシェニカに思いをよせるが、やがて何者かによって父親は殺害される。当然のごとく嫌疑をかけられるドミートリー。はたして彼は真犯人なのか……。
亀山郁夫氏の新訳で読んだせいか難解な部分はほぼ無く、没頭して読むことができた。
全4巻+エピローグ別巻、カラマーゾフ家の面々につねに圧倒されながら読んだが、特に印象深かった部分を紹介したいと思う。
まず第1部のゾシマ長老の庵室における会合のシーン。父であるフョードルが、ドミートリーと和解するために一家とその縁者に召集をかけたのだ。しかしフョードルは悪ふざけばかりし、長い意味のない演説をぶって皆を煙に巻く。
彼の異常なまでの興奮がたたみかけるように描かれていて、その無礼な振る舞いには度肝を抜かれた。
それから第2部のイワンとアリョーシャの料理屋での会話。イワンは自分の想い、生き方をアリョーシャに告げる。ありとあらゆる幼児虐待例(具体的すぎて吐き気を催すほど)。神は存在するのか否か。最後に彼が創作したという「大審問官」物語。長大な彼の話は隅々まで趣向が凝らされており、ぎっしりと種が詰まった果実のようである。
こんな超大作は読めないと食わず嫌いをしている貴方、漱石の『それから』やジッドの『狭き門』(いずれも読了できず)より数倍読みやすいこと請け合いです。
90点
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ジョン・マグレガー(新潮社)
場所はイングランド北部の、あるストーリー。そこには様々な住人が暮らしていた。双子の兄弟。ドライアイの青年。22番地には眼鏡の女の子。夏の終わりの彼らの一日がゆっくりと語られてゆく。
そしてもう一つの物語は、眼鏡の女の子の三年後について。彼女は予定外の妊娠をして困惑していた……。
独特の文体に、まず驚いた。ひとつの文に何度も出てくる一人称。詩的な言い回し(体言止め、聞いたこともない擬音など)。それらには最後まで慣れることができなかった。
読みにくさも手伝ってか、ひどく退屈な話に思えた。ラスト近く、二つの物語が交錯して少し盛り上がったが、我慢して読んだ結果がこれなのかと、唖然ともした。
無名の人々に光を当てるという小説は、短編ならまだしも、こう長くては飽きてしまう。
50点
場所はイングランド北部の、あるストーリー。そこには様々な住人が暮らしていた。双子の兄弟。ドライアイの青年。22番地には眼鏡の女の子。夏の終わりの彼らの一日がゆっくりと語られてゆく。
そしてもう一つの物語は、眼鏡の女の子の三年後について。彼女は予定外の妊娠をして困惑していた……。
独特の文体に、まず驚いた。ひとつの文に何度も出てくる一人称。詩的な言い回し(体言止め、聞いたこともない擬音など)。それらには最後まで慣れることができなかった。
読みにくさも手伝ってか、ひどく退屈な話に思えた。ラスト近く、二つの物語が交錯して少し盛り上がったが、我慢して読んだ結果がこれなのかと、唖然ともした。
無名の人々に光を当てるという小説は、短編ならまだしも、こう長くては飽きてしまう。
50点
ジョージーナ・ハーディング(新潮社)
1616年の北極海。一隻の捕鯨船が帰国の途に着こうとしていた。たった一人、極北の地に一年間留まることを宣言した男、トマス・ケイヴを残して。無謀ともいえる賭けに乗った彼の、地獄のような一年が始まる……。
ひどい寒さのほかに、どんな困難があるのだろうか? と思いながら読み進めると、ほどなくして彼は幻影に苛まれるようになった。いないはずの愛妻が現れる。それとともに、彼の悲しい過去も明らかとなる。
過去から逃れたくて、ケイヴは自暴自棄になっていたのだろうか? いや、彼はつらい過去を初めから終いまで思い返し、咀嚼して、乗り越えようとしたのであろう。日誌をつけ、狩りが出来る日は出掛けて行き、甘美な罠(=幻影)に打ち勝とうと必死に努力するケイヴ。その精神力には畏怖の念さえ抱いた。
80点
1616年の北極海。一隻の捕鯨船が帰国の途に着こうとしていた。たった一人、極北の地に一年間留まることを宣言した男、トマス・ケイヴを残して。無謀ともいえる賭けに乗った彼の、地獄のような一年が始まる……。
ひどい寒さのほかに、どんな困難があるのだろうか? と思いながら読み進めると、ほどなくして彼は幻影に苛まれるようになった。いないはずの愛妻が現れる。それとともに、彼の悲しい過去も明らかとなる。
過去から逃れたくて、ケイヴは自暴自棄になっていたのだろうか? いや、彼はつらい過去を初めから終いまで思い返し、咀嚼して、乗り越えようとしたのであろう。日誌をつけ、狩りが出来る日は出掛けて行き、甘美な罠(=幻影)に打ち勝とうと必死に努力するケイヴ。その精神力には畏怖の念さえ抱いた。
80点
ジャン・ジオノ(こぐま社)
第一次大戦の直前、「私」は、プロヴァンス地方の高地で、とある羊飼いと出会った。
家族もなく、一人で暮らす彼は、ドングリを荒地に植えていた。三年で十万個のドングリを植えたという彼は、その後もずっとそれをし続けた……。
たった一人の、何の力も持たない人間が成し遂げたことの大きさに、心を打たれた。文中にある「(羊飼いの)倦まずたゆまず与えつづける美しい行為」という表現がとても良いと思った。彼の無私な精神を、端的に言い表している。
難点を一つ挙げるなら、この本の体裁であろうか。話のボリュームは小冊子サイズなのに、ハードカバー、しかもこの値段はいかがなものか。
70点
第一次大戦の直前、「私」は、プロヴァンス地方の高地で、とある羊飼いと出会った。
家族もなく、一人で暮らす彼は、ドングリを荒地に植えていた。三年で十万個のドングリを植えたという彼は、その後もずっとそれをし続けた……。
たった一人の、何の力も持たない人間が成し遂げたことの大きさに、心を打たれた。文中にある「(羊飼いの)倦まずたゆまず与えつづける美しい行為」という表現がとても良いと思った。彼の無私な精神を、端的に言い表している。
難点を一つ挙げるなら、この本の体裁であろうか。話のボリュームは小冊子サイズなのに、ハードカバー、しかもこの値段はいかがなものか。
70点
ジャック・リッチー(晶文社)
17の短編が収められているが『歳はいくつだ』がよかった。
街にはびこる冷淡で無礼な人々。彼らはある男にこう尋ねられる。「歳はいくつだ?」。
「罪」に対する「罰」が重過ぎる。なんて固いことは言いっこなし、主人公の懲悪っぷりには胸がすく思いだった。だいたいこういう失礼な輩は、今までも、そしてこれからも罪を重ねていくこと必至、だったら早めに成敗したほうが良い。
他に、タイムマシンで殺人の現場を見られた男が、そのタイムマシンを手に入れようとするが……表題作『クライム・マシン』や、刑務所に入るために殺人を犯した男の末路を描いた『殺人哲学者』も面白かった。
85点
17の短編が収められているが『歳はいくつだ』がよかった。
街にはびこる冷淡で無礼な人々。彼らはある男にこう尋ねられる。「歳はいくつだ?」。
「罪」に対する「罰」が重過ぎる。なんて固いことは言いっこなし、主人公の懲悪っぷりには胸がすく思いだった。だいたいこういう失礼な輩は、今までも、そしてこれからも罪を重ねていくこと必至、だったら早めに成敗したほうが良い。
他に、タイムマシンで殺人の現場を見られた男が、そのタイムマシンを手に入れようとするが……表題作『クライム・マシン』や、刑務所に入るために殺人を犯した男の末路を描いた『殺人哲学者』も面白かった。
85点