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よしなしごとども 書きつくるなり
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パトリシア・ハイスミス(河出書房新社)

 中後期の短編集。
 表題作の『目には見えない何か』。
 ごく平凡な主婦のヘレーネは、ひとりでとあるホテルに滞在していた。そこで彼女は二人の男性から求婚される。
 だが彼女はどこか醒めたような態度で二人に接する。「みんなが私に関心を持つのは、もう私が他人を必要としていないからだ」……彼女はそう結論付けるのだった。

 45歳のヘレーネが、なぜそこまでモテるのか、ずっと謎のまま話は進む。もしかして、すべては彼女の妄想? と思い始めた矢先、唐突に物語は終焉を迎える。
 そのあっけないほどの結末が、なんとも物悲しい。求めると手に入らない、要らないと思ったときには、拒んでもやってくる。そんな人生の皮肉が込められているようだ。
 他の短編も甲乙つけがたいほど素晴らしく、『ゲームの行方』『狂った歯車』には、特にぞっとさせられた。
90点
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ニッキ・フレンチ(角川書店)

 十六歳で行方不明になったナタリー。彼女の遺体が二十数年振りに自宅の庭から発見される。
 彼女と仲の良かったジェインは、自らの記憶を探ることで真実を見極めようとするが……。

 前半はストーリーがもたついている感があるが、ジェインが記憶を取り戻して以降はぐんと作者の筆が冴えてくる。
 ラストにはどんでん返しもあって、その結末は考えさせられる内容となっている。
 ひとつ難点を挙げれば、セラピストであるアレックスのその後について。彼がどうなったのか言及されていない点に物足りなさを感じた。
70点
ミッチ・アルボム(NHK出版)

 十六年ぶりに再会した恩師モリーは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)に侵されていた。筆者とモリーは毎週火曜日に会って色々な話をすることにした。死について、愛について、許しについて。

 誰かを許すってなかなか難しい。許せない!って思うほうが断然たやすい。でもモリーは言う。「自尊心、虚栄心。われわれはなぜ、こんなばかなことをやっているんだろう?」
 自分がもうすぐ死ぬんだと思ったら、あらゆる人を許せるものであろうか。まぁ誰かを恨みながら死んでいくってのも切ない気がするが。
70点
シオドア・スタージョン(河出書房新社)

 短編集。表題作の『輝く断片』を紹介しよう。
 醜男で、誰からも相手にされない「おれ」。ある夜、彼は瀕死の女性を家に連れ帰る。必死で手当てをし、彼女が回復するまで献身的に看病する。だがその先に待っていた運命は……。

 同時収録の『マエストロを殺せ』には、生まれながらにして何でも持っている男が出てくるが、その対極にあるのが「おれ」である。
 ずっと「お前には用はない」と言われ続けた彼は、初めて自分を必要とする人間を得たのだ。異常な執着心、あふれるような熱意を彼が抱いたとしても、無理からぬことであろう。
 しかしそんな彼を容赦ないラストが待ち受ける。しかもその悲しい結末は、彼にもう少しの知力……せめて自分の想いを伝えられるだけの……があれば回避できたのである。
 そう考えると、この幕切れはあまりにも切ない。
75点
ルイス・セプルベダ(白水社)

 黒猫ゾルバは、偶然カモメの卵を預かることになる。彼はそれを孵し、育て、飛び方を教えようとする。

 猫って、本当は人間の言葉が理解できるし、話すことだってできる、という一文は、思わず納得しそうだった。やつらの高慢ちきな態度は、そのせいかもしれない。
 脇役陣もなかなかのキャラクター揃い。百科辞典を読みこなす猫、まぬけなチンパンジー。ボケあり、ツッコミありの、彼らの会話が絶妙。
70点
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